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【石垣島Creative Labo 2016レポート】vol.7 クロージング「石垣島 Creative Flag のこれから」 鯨本あつこさん・河尻亨一さん

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2016年の石垣島Creative Laboも、ゲストスピーカーによる一連の講義は終了。これまでの内容を振り返りつつ、石垣島 Creative Flag のこれからについて、同組織の理事である鯨本あつこさん・河尻亨一さんにお話しいただきました。

 

ゲストスピーカーの選出意図と振り返り

 

ゲストスピーカーの方々の選出と登壇交渉を担当した河尻さんは、その選出意図について次のように語ります。

 

・Creative Laboの前半では、具体的なスキルセットとも言える分野が中心。嶋浩一郎さんにはPR方法とアイデアの生み出し方、中島信也さんにはコマーシャルと映像の方法論、十文字美信さんには写真芸術、と同じ分野で活動している参加者にとってすぐにでも活かせる内容を設定。

 

・Creative Laboの後半では、ネットやITに関連したデジタル分野が中心。椎谷ハレオさんにはデジタル分野における共創という考え方、谷口マサトさんはネット上で広くシェアされるコンテンツ作り、伊藤直樹さんには技術と表現をかけ合わせて世界で勝負する方法、と参加者の活動や表現を広く世に伝えるためのヒントにあふれた内容を設定。

 

様々なゲストスピーカーのお話にも出てきたカンヌライオンズの賞を、石垣島のクリエイティブで目指したいとの意気込みを語りました。

 

鯨本さんは、一連のトークイベントが東京でもなかなか準備できないような貴重なものであったことに、あらためて驚いてしまう、と述べたうえで、石垣島 Creative Flagを島外からも仕事が舞い込んでくるような組織にしていきたいと語ります。そのうえで、設立から3年が経った今、次の段階を島外のより多くの人にその存在を認識してもらうフェーズだとしたうえで、「南の島のデザインラボ」として幅広い活動を行っていきたいと語ります。

 

続いて、世界の優れたクリエイティブとそれが生む様々な課題の解決の宝庫として、2016年のカンヌライオンズにエントリーされた作品を河尻さんがミニトーク形式で紹介していきます。

 

「カンヌライオンズ」とは

 

フランスの都市カンヌと言えば日本では「映画祭」として知られていますが、その規模のうえでも世界的な認知のうえでも「カンヌライオンズ」は映画祭を凌ぐ存在です。「カンヌライオンズ」は、すぐれた広告やコミュニケーションに関する賞を与える言わばクリエイティブの祝祭の場。正式な名称を、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」と言います。

 

河尻さんは、昔は「カンヌ広告祭」と呼ばれていたが、「広く告げる」という広告の手段が通用した時代が過ぎるなかで、カンヌライオンズもその性格を変えてきた、と話します。欧米系のメディアがこぞってカンヌライオンズを取り上げているにも関わらず日本での認知が低いことは、日本のクリエイティブ産業にとってよいこととは言えないとしつつも、カンヌライオンズに参加する日本人メンバーで独自の勉強会を現地で開くなど、知っている人にとっては「かなり<熱い>場所」になっていると河尻さんは述べます。

 

そのカンヌライオンズもこの10年という期間で見ると「テクノロジー」を核として、表現の幅も取り組む課題の種類もさらなる広がりを見せているようです。

 

Cannes Lions 2016 〜クリエイターは人工知能に勝てるか?〜

 

河尻さんは、10年を通してのカンヌライオンズ取材の経験からも2016年は多くの学びがあったとして、その要点を7つに絞って紹介していきます。

 

< 1. 人工知能(AI)はココまで来てる >

 

Google関連会社のDeepMindによる、人工知能を用いて碁への挑戦は、日本でも広く報じられました(Google DeepMind: Ground-breaking AlphaGo masters the game of Go)。チェスや将棋と比べるとその手数が多い碁においては、人工知能においてもある種の「感性」とも呼べるものが必要となってくることも。河尻さんは、Googleは別に碁で勝つために人工知能を研究しているのではなく、人工知能で世の中に起こそうとしている革命が世の中にすんなりと受け入れられるように、言わばクッションの役割を果たすPR手段として碁に挑んでいると考えられる、と見ています。

 

また、レンブラントの絵画作品から、その絵の具の「盛り具合」の様子までをもデータ化して人工知能によってレンブラントの「新作」を生み出すプロジェクトも紹介(The Next Rembrandth)。技術の進化だけではなく、ING銀行の発案であったことにも注目したい、としました。

 

< 2. ヴァーチャル・リアリティ(VR)もココまで来た >

 

続いて紹介されたのは最近大きな注目を集めている「ヴァーチャル・リアリティ」。バス内の窓に火星の風景を映すことで、子どもたちにヘッドセットなどの特別な装置なしで火星旅行を楽しんでもらうロッキード社による取り組み(FIELD TRIP TO MARS)や、ニューヨーク・タイムズ紙による360度映像を用いた報道(NYT VR: Virtual Reality by The New York Times)、そして、ベテランアニメーターであるグレン・キーン氏がVR空間のなかで絵を描くプロジェクト(Glen Keane – Step into the Page)などを紹介しつつ、河尻さんはどの作品においても「技術の奴隷にならない広がり」があるとして、流行にのって安易に技術を取り入れるのではなく、その技術の登場が意味するところをしっかり解釈したうえで表現手段に使いたい、と話しました。

 

< 3. 物語るプロダクトたち >

 

VRが世界を仮想的に体験させる一方で、衣服に織り込んだセンサーでスマートフォンなどの端末をリモート操作する試み(PROJECT JACQUARD)や、ペットボトルだけで電気を使わずに室内の温度を下げるバングラディシュでの取り組み(This amazing Bangladeshi air cooler is made from plastic bottles and uses no electricity)など、現実の世界においてもハイテク、ローテクを問わず様々な技術やアイデアが新しい世界を見せたり、困難を解決したりしていることが分かります。河尻さんは、「クリエイティブそのものが素晴らしいとしても、そこにアイデアと解決すべきものがなければ意味がない」と強調します。

 

< 4. やっぱりリアル体験が好き。人間だもの >

 

一方で、先端技術や科学を用いるのではなく、いわばアナログとも言えるクリエイティブで人々にリアルな体験を感じさせる作品も多くあります。例えば、新作ゲームの過酷な世界観を伝えるために、野外のビルボードに実際に24時間経ち続けるサバイバルレースを実施して中継した企画(Case: ‘Survival Billboard’ in London)や、ゴッホ美術館の宣伝を兼ねて、実際にゴッホの絵画に描かれた部屋を現実に再現したうえでAirbnbにて宿泊施設として提供した取り組み(Van Gogh’s Bedroom)など、見る人の五感に直接訴えるようなアイデアとクリエイティブが魅力的です。

 

< 5. 大企業と国が動けば世界は変わるかも >

 

スウェーデンが公開しているある代表番号に電話をかけると、Swedish Tourist Associationに登録しているスウェーデン人に旅行相談ができる取り組み(The Swedish Number)や、バーガーキングが国連の提唱する「PEACE ONE DAY」に、ライバルであるマクドナルドとの停戦として両社の商品を組み合わせたハンバーガーのレシピを公開した広告(Axis Gold 2016 – Burger King: McWhopper)など、国や大企業が、気の利いた堅苦しくないクリエイティブを展開することで、「巨大組織がこんなことを!」と世界が大きく反応する例も、カンヌライオンズでは見られました。

 

掛かっているお金は大きなものですが、アイデアは極めてシンプル。そして、「実際にやったということが一番すごい」と河尻さんは述べます。

 

< 6. それでも世界は課題が山積み >

 

様々な作品が登場するということは、その背景に様々な課題があるということ。例えば、DV(ドメスティック・バイオレンス)が大きな問題となっているコスタリカでは、その発生がサッカーの試合中継の盛り上がりとも関連があるとして、中継放送のスコア表示の横に、「第2のスコアボード」として試合中に報告されたDVの件数を表示(THE SECOND SCOREBOARD)。

 

また、乳がんの早期発見を唱えるNPO「MACMA」は、多くのSNSで女性の乳房の映像が投稿できないことを逆手に取って、男性の胸を使って乳がんのセルフチェックの方法を公開して話題に(#ManBoobs4Boobs)。この試みは、乳がんをいかに早く発見するかという課題に取り組むだけではなく、女性と男性とで表現できることに差があることをどう考えるかを深く問うものにもなっています。

 

いずれの問題も、簡単に解決するものではありません。しかし、それでもどこまで解決できるか本気で取り組んでいる人がいることが伝わってくる、と河尻さんは評価します。

 

< 7. 「フィルム」は感動合戦に >

 

最後にドキュメンタリー的な映像分野を河尻さんは取り上げます。例として挙げられた、呼吸器系の疾患がある人々が合唱に挑戦するフィリップス社の取り組み(ブレスレス・クワイア)について、大きな企業が社会的な活動に真剣に取り組むことが世界的に当たり前になっていることは素晴らしいことであり、内容も非常に感動的としつつも、河尻さんは全体として「感動合戦」になりつつある傾向に懸念を示しました。

 

島がよくなるシンプルで強いアイデアを

 

最後に河尻さん、鯨本さんそれぞれがまとめの言葉を発表。

 

河尻さんは、どう表現するかという局面においては当然、表現の技術が要るとしつつ、「表現が先行しても仕方ない」と話します。カンヌライオンズにおいて日本の出展作品が賞を得ることもあるが、海外の人から、面白いけれどそれが何を解決するのか分からないと言われることは多いようです。解決したいものがあればクリエイティブは必ず活きてくるとして、「島がよくなるシンプルで強いアイデアは何なのか」を考えていきたいと話しました。

 

鯨本さんは、紹介されたカンヌライオンズの作品を振り返りつつ、クライアントと仕事を進めるうえでは当然、様々な要望があがるが、そこからひとつに絞る勇気が必要であり、また、世界に向けて発信するのであれば、たとえ言葉がなくとも伝わる表現をこころがけるのがポイントとなりそう、とまとめます。
来年度の、石垣島 Creative Flag の更なる広がりに参加者の期待が高まったところで、今年度の石垣島Creative Laboは無事お開きとなりました。

 

(開催:2016年8月27日(土) 於:ホテルエメラルドアイル石垣島 レポート:光森裕樹)