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【石垣島Creative Labo 2016レポート】vol.6 「逃げてきた先、そして技術との関わり方」 伊藤直樹さん

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「石垣島Creative Labo 2016」、第6回目のゲストスピーカーはPARTY(株式会社パーティー)の伊藤直樹さんにお越しいただきました。PARTYは「クリエイティブ・ラボ」として、インターネット社会ならではのデジタル技術を活用したデザインを行っている会社。近作としては、成田空港第3ターミナルの陸上トラックを模したデザインや、サンスターのスマホと連動するスマートハブラシ「G・U・M PLAY」が有名ですが、国内にとどまることなく世界中で活躍する会社です。その設立までの経緯を中心に、世界と仕事をする・世界で仕事をするヒントをお話いただきました。

 

逃げてきたらこうなった

 

京都造形芸術大学の教授でもある伊藤さんは、高校生の50人に一人程度しか芸術大学を目指さず、またその8割5分が女性であるという大きな偏りのある現状を危惧。京都造形芸術大学のブランディングにも携わるなかで、クリエイティブを志す人を増やすには、大学としてできることだけではなく、小学校などの低年齢のころからクリエイティブに触れるような環境が必要だとします。

 

その伊藤さん自身は、4歳の頃から絵画を習っていましたが、芸術大学には進みませんでした。自身のこれまでを振り返って、伊藤さんは「逃げて、逃げて、逃げてきたらこうなった」と言います。

 

今いる場所を嫌うのは意味がない

 

小さな頃から絵を描くのが好きな伊藤さんは、一方で親に与えられた世界地図を眺めるのも好きで、国名や山脈・川の名前をひたすら暗記するような少年でした。そのなかで、「いつかは世界に行きたいなぁ」という夢を描くようになりますが、それは世界がすごくて日本はすごくない、というような思いからではなく、純粋な憧れでした。

 

受験を経て大学生になった伊藤さんは、社会生活や学生生活において一気にあふれだした情報の渦のなかで、どうしても篭りがちになります。そんななかで思い切ってインドの放浪の旅に出発。しかし、現地で赤痢にかかって生死の境をさまよったり、「絨毯を買うまで帰さない」と言われて強面の男たちに軟禁されたりと、さんざんな目に。それでも、伊藤さんは「自分が今いる場所を嫌うのは意味がない。選択したのは自分。ここでは<勝負>できないが、インドなんて二度と来ない、というようには思わないようにした」と述べます。当時読んだ浅田彰の『逃走論―スキゾ・キッズの冒険』に書かれていた「軽やかに逃走すればいい」という考え方は、伊藤さんの心に響き「すごく気持ちが軽くなった」と振り返ります。

 

国内で勝てないのなら、海外で勝てばいいのではないか

 

1995年、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件のあった激動の年に、伊藤さんは広告代理店であるアサツーディ・ケイに入社します。しかし、希望したクリエイティブの部署には行くことができませんでした。同世代である麻生哲朗さんが電通から独立してクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を立ち上げたこと(1999年)や、彼の生み出すクリエイティブなCMを横目で見ながら、CMの分野ではとうてい勝てないと実感。しかし、徐々に一般化し始めたインターネットには学生時代から大きな可能性を感じていました。

 

2000年代になり、Googleの登場に代表されるようなITバブルの時代に。一般家庭でもネットの常時接続が普及し始めました。そのなかでNIKEの仕事を担当。携帯電話のバイブレーションを、サッカーのパスを受けた状況に見立て、複数間のメッセージのやりとりでサッカーを行う企画「蹴メ」は、中高生の間で大きな反響を生みました。伊藤さんは、ITが生むインタラクティブの可能性を実感します。

 

2005年には、念願のクリエイティブ局に異動に。しかし、入社してすでに10年が経っており、およそ200名が所属する部署のなかで、仕事はなかなか回ってきません。それでも、Macromedia社(現Adobe社)のFlashで複雑な動きのあるデザインがブラウザ上でできるようになったことや、YouTubeのような動画サイトが現れ始めたのを見て、「インターネットと映像を融合させて何かができるはず」と感じてきたことに、世の中の技術がようやく追いついたことに気づきます。

 

NIKEとの取り組みである「NikeCosplay」では、YouTubeにてゲリラ的に公開した動画が大きな話題に。当初は、当時日本で流行っていたSNS「mixi」で広がることを第一に考えていたものの、蓋を開けてみるとその映像は100カ国以上の人が観ていることに気付いた伊藤さんは、「クリエイティブにおいて、国内で勝てないのなら、海外で勝てばいいのではないか」ということを、意識し始めます。

 

それからの仕事はいっそう海外を意識した要素が強く、XBOX用ゲームソフト「ブルードラゴン」のキャンペーンでは、当時珍しかったプロジェクションマッピングを用いて、影を大きく形を変えたり動いたりするさまを楽しむ作品のように、言葉や文化的背景に依らず、誰もがぱっと理解できて魅力を感じ取れるものが増えてきました。

 

作品が海外で高く評価されるなかで、海外における賞の審査員を担当するようになり、アメリカのポートランドに本社を置くエージェンシー「Wieden+Kennedy(ワイデン・アンド・ケネディ)」に活躍の場を移します。

 

Wieden+Kennedyに学んだこと

 

伊藤さんはWieden+Kennedyで多くのことを学んだとして、そこからふたつを選んで紹介。

 

ひとつ目は、まずはマニフェストとして企業やブランドのメッセージを作ってから、作業に取り掛かるという方法。日本における広告表現やクリエイティブにおいては、どうしてもいきなりシナリオやデザインから入ってしまいがち。たとえ数十億円が動く案件であったとしても、まずはマニフェストを作成し、そこからブレないようにクリエイティブを作成していくことは大切であるとします。

 

ふたつ目は、「ART & COPY」と言われるように、アートディレクターとコピーライターがセットになって活動するスタイル。相互にスキルの異なる人同士で働くことで、互いに補い合ったり、素直に指摘し合ったりすることができます。伊藤さんは、今の芸術大学ではパソコンの所有が必須となっており、学生のほとんどがひとりで全てをやりたがろうとすることを問題視。「デザインという局面においては、ひとりでできることはない」として、ディズニーによる映画「ズートピア」に代表されるような、高度に分業化されたシステマティックな現場においても、関わる個人個人が自らの仕事に誇りを持っていることを例にあげます。

 

個人の総合力を高めることを目指しても、ひとつひとつの分野では勝てないことばかりで苦しくなってくる、とご自身の体験を振り返りつつ、何かひとつ自身をもって勝負できるものを見つけることが海外でも戦っていける秘訣だとします。

 

Wieden+Kennedyを退職後、伊藤さんは2011年にPARTYを設立。伊藤さんが大切にする「インターネットなどを使って、言語に依存しない、インタラクティブな体験のデザインを、世界に向けて。」という考え方には、「逃げてきた」とするひとつひとつの場所での体験が生きていることがうかがえます。

 

技術をそのまま技術として捉えない

 

最後に伊藤さんは、最近話題になっている「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「人工知能」「IoT」といった技術について、「羅列された情報は整理して考えるようにしたい」と述べます。例えばこれらの技術を、伊藤さんは「IoT → 人工知能 → VR・AR」という流れで捉え、それぞれ「計測・判別 → 解析・判断 → 表現」と言い換えてみせます。技術をそのまま技術として捉えないことで、発想はより広く柔軟になるはず、としてトークを締め括りました。

 

ディスカッション・質疑応答

 

参加者A:海外での仕事や賞の審査員を担当するときに、日本人であることはどういう影響がありますか?

 

伊藤さん:イギリス英語の言い回しにある「queer and wonderful(風変わりで、すばらしい)」という評価を、日本のクリエイティブは受けることが多い。首相がマリオの帽子を被ってセレモニーに出るような「変さ」は、日本らしいアプローチとも言える。言葉にすると「いとをかし」という感覚が、日本のクリエイティブを的確に示しているかもしれない。

 

トークイベントを終えて

 

「DIYカルチャー(=なんでも自分たちでする)」の強いアメリカのポートランドと、離島である石垣島の雰囲気は近いのではないか、という文脈のなかで「東京や本島を向くのではなく、独自性を持って世界に目を向けるがいいのでは」という話も出てきました。強い激励の言葉をいただいた一方で、では石垣島独自の文化をひとことで表すと?という参加者への問いかけには、誰も明確には答えられなかったのが印象的でした。

 

石垣島のクリエイティブも「いとをかし」という言葉に集約されるのか、はたまた、そこから大きくはみ出すものがあるのか。世界に目を向けると同時に、あらためて私たち自身の暮らす島や、そこから生まれるクリエイティブの特徴を探していく必要がありそうです。

 

次回の「石垣島Creative Labo 2016」は、石垣島 Creative Flagの理事である鯨本あつこさん・河尻亨一さんによるこれまでの振り返りと締め括りの会となります。

 

(開催:2016年8月26日(金) 於:ホテルエメラルドアイル石垣島 レポート:光森裕樹)