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【石垣島Creative Labo 2016レポート】vol.2 「喜んでもらイズム」 中島信也さん

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「石垣島Creative Labo 2016」、第2回目のゲストスピーカーはCMディレクターの中島信也さんにお越しいただきました。原始時代を舞台にした日清食品カップヌードルのCM「hungry?」シリーズは、誰しもが知るところ。中島さんが関わられた数多くのCMを振り返りながら、楽しいトークが軽快な調子で進んでいきます。

 

おいたち〜The BEATLESに憧れて〜

 

1959年福岡県に生まれた中島さんは、父親の仕事の都合ですぐに大阪に引っ越します。「モテたかったが、足が遅いのは小学生にとっては致命的だった」と自身の少年期を懐かしそうに振り返ります。

 

様々なグループバンドに憧れるなかで、高校時代には「THE BEATLES」に強く惹かれバンドを結成することも。音楽活動に力を注いでいましたが、ジョン・レノンがアートスクールに通っていたことと、父親の勧めから武蔵野美術大学に進学。

 

その後、就職活動のなかで受験した広告代理店のクリエイターから「君はデザインのセンスはないけれど、プレゼンがうまいのでテレビ業界に行ったほうがいい」という助言を受け、映画やテレビ番組・CMを制作する東北新社に入社します。

 

<改造人間・中島信也>の誕生

 

勝手の分からない番組・テレビCM製作業界のなかで、中島さんが心がけたのは「とにかく、怒られないこと」。夢とか大志は棚上げにして、先輩の顔色をうかがいつつ、とにかく自分自身の「改造」に勤めたことを強調します。

 

CMディレクターとなったのちもその姿勢は変わらず「まさに改造人間・中島信也だった」と当時を振り返ります。もちろん、中島さんが伝えたかったのは、何があっても平身低頭であれ、ということではなく、まずは何事も自分の課題として素直に学んでいこうよということ。中島さんの話しぶりに笑いの絶えない参加者たちにも思い当たることがあるのか、頷く姿も多く見られました。

 

ひたすら自身を<改造>してゆくなかで入社から10年ほどが経ちます。そして、ディレクターを勤めた日清食品カップヌードルのCM「hungry?」シリーズで、日本人として初のカンヌ国際広告祭グランプリを受賞。ありがたいことに仕事はたくさんくる、しかし「自分には、できないことだらけであることを実感した」と言う中島さんが頼ったのが<人の力>です。

 

<喜んでもらイズム>を大切に

 

ひとつのテレビCMを作成するにも多くの人が関わるため、中島さんは自身の仕事を<お願い稼業>だと話します。

 

カメラマンや大道具さん、メイクさんに喜んでもらえる監督であるためにはどうすればいいかを常に考えて行動します。喜んでもらえると、まだ若い自分の意見でも聞き入れてくれる。そして、意見を聞き入れてくれたらその恩は忘れないでおく。中島さんは、この<喜んでもらイズム>をずっと大切にしてきており、それは自分よりも若いスタッフとの仕事が増えた今でも変わらない<人生の柱>だと述べます。

 

そして、クリエイティブな仕事がしたいが、どうにも自分には個性がないと思っていたとしても、この「喜んでもらイズム」の精神は役に立つはずと、参加者の背を押すように助言します。

 

クリエイティブが心をプラスに動かす

 

広告というものは多くの人が関わる<作戦>のようなものです。最終的な目的は、製品を買って欲しい・イベントに来て欲しい・企業にいい印象を持って欲しいなどの具体的なものになりますが、「人々に触れることになる広告がまず目指すことは、心がプラスに動くこと」と、中島さんは話します。

 

テレビCMであれば、それを観た人がまずは、かわいい!たのしい!わかる!やばい!などの、何かを感じてくれること。 それが、心がプラスに動くことであり、<喜んでもらイズム>が世の中や人々に発揮された結果とも言えます。中島さんは、クリエイティブはこの広告という大きな作戦においての入口となる部分で大きく作用し、人の心をプラスに動かすものとします。

 

クリエイティブに大切なもの

 

クリエイティブは、ビジュアル・音・言葉など、学問で言えば美術・音楽・文学といった芸術の領域にあるもので、当然ながら「創造力」が大事。その質を高めていくことで、作品に接する人々に喜んでもらうことができます。しかし、それは決してテクニックを磨くことだけでできるものではないと、中島さんは注意を促します。

 

作品を通して人とのコミュニケーションを取るということは、「見ず知らずの人にお声がけをする」という繊細な行為に他なりません。中島さんは、そこで大切になってくるのが「想像力ならぬ<想像心>」だと述べます。こんなことをしたら相手はどう思うだろう? 相手は傷ついてしまうだろうか? 喜んでくれるだろうか? そんな風に、相手の心を想像する心が<想像心>です。その根底には、他者へのおもいやりがあり、どんなデザインや表現でもそのおもいやりを大切にして下さいと、中島さんはトークを締め括りました。

 

ディスカッション・質疑応答

 

参加者A:クリエイティブに理解がないクライアントは、どうすれば説得できますか?

 

中島さん:おなじ目標が持てるかが大事。クライアント側はお客さんに来て欲しい、であったり、買って欲しいと思い、一方で、クリエイター側はとにかく面白い物を作りたいもの。例えば、クライアントにはこれまでの方法では駄目ですよね、としっかり話して理解してもらう。両者を繋げるのが「喜んでもらイズム」です。

 

参加者B:おなじ目標を持つには、信頼関係が必要かと思いますが、その構築方法はありますか?

 

中島さん:志(こころざし)が大切かなと思います。人間ですから足りないものはいっぱいありますが、本当はこんな世の中だったらいいな、こんな人間だったらいいな、ということを照れずに話し、思い続けるということが大事だと思います。

 

参加者C:広告というものの評価はどう決まるものでしょうか? 数字や斬新さなど、いろいろな軸があると思いますが。

 

中島さん:広告主は数字ですね。ただ、ある商品が売れたとして、商品そのものが良かったからであったり、CMを流す量が多かったからであったり、CM単体での効果は掴みづらいものがあります。

 

河尻さん(司会):Cさんが関わる現代アートの分野ではどうですか?

 

参加者C:評価方法がないのが現代アートだとも言えるかと思います。評価方法自体を自分で決めていくことも。

 

中島さん:物が売れるかどうかということをはずして評価できるのではないか、という幻想を僕らは持っている。面白いCMは他のアート作品と同じく、人間にとっては自分を取り巻く素敵なものになりうるのではないか、という想いがあって、経済の面だけではなく文化をかたち作るという面もあるのではないかと信じています。

 

河尻さん:アートは自分で自分の課題を解決していき、広告やデザイン制作はクライアントの課題を解決していく。それでは片方しかなく、私たち(広告批評家)の立場では「批評性があるか」も大切。例えば、中島さんの日清カップヌードルのCMは、飽食のバブルの時代に「hungry?」と問いかけた。そうすると、「実は、自分はこの時代のなかで<腹が減っていた>のではないか?」と気付かされる。だからこそ、今でもそのCMは古びていない。課題解決と批評性のふたつの評価軸を天秤にかけて広告を見てきた。

 

トークイベントを終えて

 

テンポよく進んでいくプレゼンテーションに魅せられながらのトークイベントとなりました。時折はさまれる中島さんが関わったCMは、話の筋を補強する例証でありながら、テレビ番組の途中ではさまれる文字通りのCMのようでもありました。最後に中島さんからいただいた「あたたかい島の影響もあるかもしれないけれど、石垣島のクリエイターには作品を見て欲しい、お互いに見せ合いたいという雰囲気があって、それがこれからを拓いていくのかなと思います」というメッセージは、参加者のこころに強く響いた様子でした。

 

次回の「石垣島Creative Labo 2016」は、写真家の十文字美信さんをゲストスピーカーにお迎えいたします。

 

(開催:2016年3月6日(日) 於:ホテルエメラルドアイル石垣島 レポート:光森裕樹)