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【石垣島Creative Labo 2016レポート】vol.1 「無駄の大切さ」 嶋浩一郎さん

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昨年に続いての開催となる「石垣島Creative Labo 2016」、第1回目のゲストスピーカーは「株式会社博報堂ケトル」代表取締役社長・共同CEOでクリエイティブディレクターの嶋浩一郎さんにお越しいただきました。

嶋さんは「人の事例は、もうその人がやっちゃっているものなので(紹介しても)意味がない」として、「企画をするときに大事なこと」「企画するときのスタンス」を軸に話していきたい、とトークを切り出しました。そして、博報堂ケトルで働く者として、企画の際に大切にしていることを3点挙げました。

 

<企画をするときに守りたいこと>

 

  • 1.一人で全部やること
  • 2.ニュートラルに発想すること
  • 3.人の新しい感情、特に新しい欲望に気付くこと

 

それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。

 

1. 一人で全部やること

 

「一人で全部やる」とは、イベントの企画・実行でも、グラフィックデザイン制作でも「ちゃんと責任を持って一人の人がディレクションをする」ということ。 当然ながら、実際のイベント実行やデザイン制作には多くの人が関わり、具体的な作業を誰かにお願いすることになります。

 

この言葉の意図は、全ての「作業」を自分でするということではなく、ターゲットとなる人たちが何を思っているかをきっちりと捉えて、それに応えるものができるように責任を持ってディレクションをする、ということ。

 

実際の作業はそれを専門とする様々なプロに任せても、制作の進行から完成まではしっかり関わっていくわけですから、「仕事の進め方はマルチタスクとなってくる」と、時代の流れに沿った働き方の変化を嶋さんは強調しています。

 

2. ニュートラルに発想すること

 

「ニュートラルに発想する」とは、既成概念やこれまでの成功体験はいったん脇に置いておき、課題解決のためには何がいいのかということをゼロベースで考えるということを意味します。

 

例えば、ある商品を売りたいという依頼の場合、普通に考えるとこれまでの成功体験から「テレビCMを作ればいいのでは」となります。そこで「でも、他のことをやったほうがもっと売れるんじゃないか」と考えることが大切です。

 

予算の少なさや期間の短さ、あるいは、クライアントの無理解について不平を言う人は多いものですが、嶋さんは「結局、同じ条件のなかでみんな戦っているはず」として、「自分が持っている時間とリソースと予算をいかに<編集>して課題解決するか」に注力できる人が「いい仕事をする人」の条件だと述べました。

 

3. 人の新しい感情、特に新しい欲望に気付くこと

 

人の欲望を捉えるということは、マーケティングの分野では「インサイトを捉える」という言い方になります。「インサイト(insight)」は英語で「洞察」を意味する言葉。深くその人の欲望を洞察していき、本当はどういうことを望んでいるのか、本音としては何を要望しているのか、ということを探っていくことが大切です。

 

言葉にすると簡単なようですが、嶋さんは「人の欲望を言い当てるのはすごく大変」と述べ、欲望に関する人の特性を2点あげています。ひとつ目は、「人は意外と不器用で、自分が何をしたいかをそれほど言語化できていない」こと、ふたつ目は「人は都合がいいもので、自分が欲しかったものが実際目の前に出てくると、そうそうこれがずっと欲しかったのだ」と思うこと。

 

このふたつの特性の架け橋をうみだすことが「企画」の醍醐味と言えます。 嶋さんは、運営する書店「本屋B&B」を例に、顧客が言語化できている「欲しい物(=欲望)」については「Amazonで買ってもらって全然問題ない」とされます。

 

「本屋B&B」が提供するのは、「実はこの本が欲しかったのでは?」「実はこれに興味があったでしょう」といったことを先回りしてあげることだとし、すでに経済化した欲望にしか答えられないインターネットの世界に対する強みを大切にしている、と述べました。

 

<無駄>から生まれるイノベーション

 

嶋さんはいつでもポストイット(付箋紙)を持ち歩いており、本を読んでいて知らないことが書いてあると、必ず印をつけたうえで、ノートにまとめています。様々な分野の「雑学」とも言えるメモをいくつかを紹介したうえで、「一見無駄な情報は、企画の立案にとても役に立ちます。イノベーションって関係ないものと関係ないものとがくっついた時に必ず起きるもの」と語ります。

 

インターネットが登場してから「すぐに直接的な答えを求める人が多くなった」と懸念を示しつつ、「迂回していろんな物を見ながら結論を出せる方が、無駄がいっぱいあっていいかなと思っています」とトークのまとめに入ります。

 

嶋さんが参加者に呼びかけたのは、なんと「名古屋人になること」。丁寧にセレクトされた雑貨や書籍をまるごと展示する「ヴィレッジバンガード」が名古屋発祥であったり、スガキヤのフォークとスプーンを一体化させた独自の食器の発明があったりなど、名古屋には既存概念にとらわれない発想が多く見られ、企画のヒントが詰まっているとのこと。

 

名古屋人ならどうするか、そんな視点からあらたな問題解決やクリエイティブが生まれてくるかもしれませんね。

 

ディスカッション・質疑応答

 

参加者A:いい無駄と、悪い無駄のような区別はありますか? 無駄なら、どんな無駄でもいいのでしょうか。

 

嶋さん:基本的には無駄に区別はなく、がんばれば目に見える全てのことはメッセージというか、何らかの役に立つと考えています。

 

 

参加者B:得た情報を全て書き留める必要がありますか?

 

嶋さん:僕にとっては、ポストイットを貼り付けたり、メモにまとめたりするのが合っているだけだと思います。義務にしてしまうと人には良くないので、単に楽しいからやってるだけですね。僕には、そういう付箋やメモるのが合ってるだけで、人によって全然違うと思う。

 

参加者C:全部一人でやる、というお話がありましたが、その一人以外はどういう意識で関わるものでしょうか?

 

嶋さん:広告の仕事はチームでやる仕事なんで、時には1,000人が関わるのですが、ディレクションをする、つまり指示をする人はあくまでも一人、という意味ですね。ただ、関わっている人の中に「この仕事はオレがやったんだ」という人がいっぱいいる仕事は、いい仕事だと感じています。みんなが「自分の仕事」だと言っているような状態ですよね。

 

 

トークを終えて

 

名古屋人になること――。この例えひとつをとっても、嶋さんが収集された「雑学」が無駄なく活かされており、「無駄」の大切さにおおきく頷かせられる会となりました。 石垣島でクリエイティブ活動する参加者の中には、依頼された仕事をなんとか完成させることに追われ、クライアントにとっての真の「問題解決」を深く追究することの難しさに直面することも多いはず。「企画をするときに絶対に守ろうとしていること」の3項目も、そのひとつひとつがずっしりとした重みのある言葉として参加者たちに受け止められたことと思われます。

 

次回の「石垣島Creative Labo 2016」は、CMディレクターの中島信也さんをゲストスピーカーにお迎えいたします。

 

(開催:2016年1月31日(日) 於:ホテルエメラルドアイル石垣島 レポート:光森裕樹)